最初の外部査読に対する反応とその過程

学期末の成績付けなどで前回のブログから1ヶ月ほどかかってしまったのですが、今回は学術本の草稿に対する一度目の外部査読を受けた上で、どのように反応したかを述べたいと思います。前回の投稿では、簡単に言うと意地悪な外部査読が多いなか、自分としては必要且つ意味のある点を指摘してもらえたということです。そのような外部査読に対して、基本的には言われた通りに修正した、と言うのが今回の大まかな内容です。ただ、そうした中で一つトリッキーな指摘があったのでその点についても述べたいと思います。

比較的すんなり消化して対応できたのは、Editingの部分とズームアウトして詳細に語る歴史をより広範囲な問題点に結びつける点でした。Editingに関しては狭義の英文そのものの編集に加えて、できるだけ英語として通じる語彙、フレーズや定義などについてでした。この点については別に昨日や今日に始まったことではなく、留学して以来ずっと苦労して認識してる点であり、指摘された点は「その通り!」と思って書き直したり、説明を加えたりしました。また、ズームアウトの点についても、木を見るだけではなく森を見るように、あることを詳細に語っていることはどのような文脈において起き、どうして必要なのか?重要なのか?ということを再度問い直すことを促すものでした。本論たる一次資料等の分析にあまりにも集中して書くと読者は迷路に迷ってしまうので、段落や各章の構成も含めてズームアウトの視点は大事だと思い、改訂しました。このような過程はやはり第三者の過程が大事だな、とつくづく思わされる場面であり、意味のある過程でありました。

一つだけ素直に言われた通りに改訂できないと思った点がありました。それは、査読者の一人が個人としてより日本と台湾養女取引の問題に関心があり、かつそれだけにフォーカスした方が読みやすい、とされた点でした。筆者は2017年にJournal of Women’s Historyより”Human Trafficking and Intra-imperial Knowledge: Adopted Daughters, Households, and Law in Imperial Japan and Colonial Taiwan, 1919-1935”という論文を発表しており、それと重複するような(本書では以降解釈を変えているのでそのまま同じではありませんが)指摘であったので、そのままの形で反応できません。それ以上に重要なことは、本書のおいては結局のことろ、歴史的に問題とされた点は養女取引の問題だけに留まらず社会的構成としての家とその周縁の関係にあったということであり、養女取引はその問題の一つの入り口に過ぎなかったというでした。こうして、査読者の指摘を消化しつつも、筆者の本における狙いを再度説明・強調する反応をし、譲れない部分はそれとして論証することにしました。

一度目の外部査読を受け、本を改訂した後に、その改訂した草稿と共に、上記のように査読の指摘についてどのように反応・反論したかを別紙ケンブリッジ出版社へ提出しました。査読者に反論するのは緊張を強いる作業ではありましたが、査読者自身も自分の意見が全て反映されることを期待してもいないでしょうし、そもそもちゃんと理詰めで反論してもらうことを期待してもいたのかなと思います。出版社の編集者も査読か筆者かどちらが正しいというスタンスではなく、より良いものを作りたい一心なので、第三者の意見によって再発見したものは受け入れ、論理的に整合しないことは反証すれば良いと思います。これらの過程は2021年9月に受領し、冬休み中に終わらせました。次回は、出版契約に至る2023年5月までの改訂に関する過程を述べたいと思います。

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学術本出版に関する費用とその補助、またそれに関する自分の失敗談

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