学術本のプロポーザル作成過程: (2) アプローチ
前回、ある程度の時間を経て、博論を再構成することについて述べました。時系列的にはプロポーザルを書く前にするというより、書きながらという感じです。というのも、ケンブリッジ大学出版局のように直接「どのように博論を改訂しましたか?」という質問にプロポーザルで答える必要があり、多かれ少なかれ考えるものだからです。また、プロポーザルを書く事自体、本のイントロ、議論、各章の構成を再度考えることにもなります。では、自分の例に沿ってプロポーザルにまつわるアプローチ方法と内容について、今回と次回で述べたいと思います。
まず、各出版局のサイトを見て、広い定義で自分の専攻、関心と関連していて、どこが直近で活動的にそれらについて出版しているかを確認することだと思います。自分の場合「日本・東アジア研究、アジア/植民法、広い意味での歴史学と社会的関心の関連」に着目し、Univ. of Washington Press (UW), Stanford Unv. Press, Cambridgeが最適だと思いました。そこで、各出版局のサイトから担当している編集者へ短いメールを送って、自分の研究に関心があって、プロポーザルを読む意向があるか伺います。短い段落の自己紹介、研究内容、上などの理由でなぜ自分の研究が当該出版局に最適か、などで充分だと思います。可能性があるならば、プロポーザルを提出してください、という返事が来るはずです。もし、返信が一度なかったら、もう一度だけ送っても結構だと思います。
そして、最初の時点では複数を念頭におくべきです、というのも、断られますし、自分は最初の2つにはプロポーザルは拒絶されました。UWはアジア研究について盛んなことに加えて、過去アジア、特に中国と朝鮮半島の法制史などを出版していたこともあったからです。しかし、プロポーザルの時点で拒絶されました(理由の説明などはありません)。2つ目にコンタクトしたのはStanfordでこちらはプロポーザルまで読んでくれて、かつAAS(アジア研究協会)の本を展覧しているブースでも立ち話をし、本の完成を待つということでした。ただ、途中で編集担当者が変わった瞬間、自分の本の出版は考慮しないとのことでした。落ち込む暇もなく、Cambridgeに同様のプロセスで連絡を取り、今日に至るという感じです。
この初期段階での編集者へ話を持ちかける過程をよくPitch (セールストーク)と言って、アメリカなどでは重要視しています (就活でも大事で、これについては別の機会に)。上記の最初のメールや学会で10-20分ぐらいのアポの中で、研究が何について、どうして重要かを非専門家でもわかるように広範囲に受け入れられつつも専門家にも意義があるよう話すことです。また、特定の出版局ならではセールスポイントも話す必要があると思われます。自分はほんと苦手で、アメリカの学者はこれがうまいな~といつも思っています。得意不得意に限らず必須なので、プロポーザルを書いたり就活をしたりする過程で口頭でも述べられるような訓練が必要です。特に本文の読者は主に日本から見ている人が多いと思われるので、英語でこれをできるかが鍵だと思います。実際、何度も何度も学会で会うことはないので(コロナ等で自分は一度会ったきりです)、最初が肝心ではないでしょうか。
ということで、次回はプロポーザルの内容について書こうと思いますが、上の過程を経るなかで頭の中ではだいたい構成できてくるような感じではあります。なので、内容以前に、どのように出版局にアプローチするかを先に書かせていただきました。